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上告趣意書要約

上告趣意書 第1点要約

現在、絞首刑は、首にロープをかけて死刑を執行される者(以下「受刑者」)を落下させ、空中に吊り下げる方式で行われることがほとんどです。わが国も明治6年以来、この方法を採用しています。ところが、この方式の絞首刑では、落下直後に受刑者の首が切断されたり、またはそれに近い状態まで切断される例が世界各国で報告されています。

それらの一部は、1942年米国カリフォルニア州や1962年カナダ・トロントの例のように書籍になっています。英国では1953年に提出された議会への報告書の中で取り上げられました。最近でも、2007年1月15日にイラク・バクダッドで処刑されたサダム・フセインの異父弟バルザン・イブラヒム・アル=ティクリティ氏の例があり、首がちぎれて血だまりができた様子を撮ったビデオが一部の報道関係者に公開されました。

通常、絞首刑では、ロープが伸び切った瞬間に受刑者の首を上下に引っ張る力がかかります。体重が重く落下距離が長いほど、受刑者の首にかかる力は大きくなります。この力が弱ければすぐに死亡することはなく、受刑者は数分もしくはそれ以上の時間をかけて窒息死することになります。逆に、首への衝撃がある程度強ければ、頸椎の骨折、脊髄の切断、及び首の動脈の損傷などが原因で短時間のうちに意識を失って死亡することになります。受刑者を落下させる目的はここにあります。この首にかかる力が、首全体が耐えうる限界を超えた場合に、引きちぎられて首の切断が起きるのです。(法医学者の研究によると、どのくらいの力が加わると首が切断されるかまで判明しています。)

このため、絞首刑を採用している国・軍隊では、執行方法を調整して首の切断を防止しようと努めてきています。その一例として、絞首刑を採用していた当時の英国や米陸軍では、首にかかる力を制限するために、受刑者の体重に応じた落下距離を定めて、落下表(drop table)を作成していました。英国は死刑そのものを廃止し米陸軍も今では絞首刑を採用していませんが、この落下表は現在でも絞首刑を採用している国などで採用されています。

一方、わが国の絞首刑では受刑者の首の切断を防止するための法律は存在しません。同趣旨の通達や命令の存在も明らかになっていません。落下表の使用はおろか存在すらも不明です。切断を防止する目的の規定を持った国でも起こっているのですから、そのような規定を持たないわが国の絞首刑でも受刑者の首の切断は起こり得ると言えます。

首が切断される可能性のあるわが国の死刑は憲法36条(残虐な刑罰の禁止)に違反します。

また、憲法31条は、法律の定める手続によらなければ生命を奪われないこと(適正手続の保証)を定めています。まず首が切断されるような死刑は刑法11条の定める「絞首」ではありません。つまり、法律の定めていない執行方法を用いた死刑です。次に首が切断されれば、法律の定める「絞首」ではありませんから、それを防ぐための規定は(それが本当に首の切断を防ぐことができるかどうかは別の話ですが)、死刑の執行方法の種類を特定するために法律に明記されるべき内容(法律事項)です。ところが、わが国の法律には規定されていません。最後に最高裁の判例によって現在も有効であるとされている明治6年太政官布告65号は受刑者を「地ヲ離ル凡一尺」まで落下させるように定めています。現在の刑事施設は刑場の床が開いて受刑者が落下する構造になっています。例えば東京拘置所では刑場の床から下の階の床まで約4mあるとされていますから受刑者は約3.7m落下することになります。前述のティクリティ氏(体重80㎏足らず)の例などでは、2.4m程度の落下で首の切断が起こることからすると、わが国の死刑に関する規定をそのまま実行すると絞首刑のさいに受刑者の首が切断されてしまいかねません。つまり定められた手続の中に適正でない内容があります。以上3つの点からわが国の死刑は憲法31条に違反します。

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