Home > 裁判資料 > 絞首刑の残虐性-オーストリア法医学会会長の証言

絞首刑の残虐性-オーストリア法医学会会長の証言

オーストリア法医学会会長 ヴァルテル・ラブル インスブルック医科大学法医学研究所副所長の証言

2012年10月11日、初めて絞首刑の残虐性が争点になった裁判員裁判で同博士は、絞首刑を執行された者が意識を瞬時に失うことはまれで、最低でも5~8秒間、場合によっては2~3分間意識がある場合があり、その間は苦痛を感じることや、さらに首が切断される場合もあると述べています。

平成21年(わ)第6154号    証人尋問調書

弁護人

少し、あなた御自身のことについてお尋ねします。まず、もう一度、お名前を言っていただけますか。

ヴァルテル・ラブルと申します。

どちらにお住まいですか。

チロルのインスブルックに住んでおります。オーストリアです。

御職業は何ですか。

法医学者です。

どのような組織で働いておられますか。

インスブルック医科大学法医学研究所で働いています。

そのインスブルック医科大学法医学研究所というのは、国立の機関ですか、私立の機関ですか。

それは、国立大学の機関です。

ということは、あなたは、オーストリアでは国家公務員ですか。

そのとおりです。

インスブルック医科大学法医学研究所で働いて、何年ぐらいになりますか。

1983年以来、28年間にわたって働いております。

現在、インスブルック医科大学法医学研究所で、あなたはどういう立場にいらっしゃるんですか。

私は、インスティチュートの副所長です。

インスブルック医科大学法医学研究所の副所長というお立場以外に、法医学に関する学会に何か所属しておられますか。

はい。私は、ドイツの法医学学会とオーストリアの法医学学会に所属しています。

オーストリアの法医学会には、オーストリアの法医学者の何パーセントぐらいが加入していますか。

ほぼ100パーセント、会員です。

あなたは、オーストリア法医学会では、どういう立場でいらっしゃいますか。

オーストリア法医学学会の会長をしております。

いつから、オーストリアの法医学会会長をされてるんですか。

2004年以来です。

ということは、7年ぐらいということですか。

そのとおりです。

ということは、あなたは、現在、インスブルック医科大学法医学研究所の副所長をされていると同時に、オーストリア法医学会の会長もされているということですね。

そのとおりです。

では、あなたがお勤めになっているインスブルック医科大学法医学研究所についてお尋ねします。インスブルック医科大学法医学研究所は、どのような研究をしている機関ですか。

法医学の分野全部に関わる分野をしておりますが、重点を置いているのは、DNA鑑定と中毒学、それから、検死を含む死因の解明です。

あなた御自身も、今おっしゃったような研究に携わっておられますか。

28年間、インスティチュ―トで働いている間に、ほぼ全ての分野で研究をしましたけども、特に重点を置いているのが、検死を含む死因の解明、そして、その鑑定です。

検死における死因の解明の中には、例えば、首をつって亡くなられたかたの死因の研究も含まれていますか。

はい、それも入っています。

絞首刑における死因の研究も含まれますか。

オーストリアに絞首刑はありませんけども、テーマは同じです。

どうして、首つり自殺における死因の研究や、絞首刑における死因の研究を始めることになったのですか。

年間に15件から20件、様々な首つりで亡くなるかたがいらっしゃって、その件について、私たちのインスティチュートでは、他人の手が、第三者の手が介在していないか、その死因に介在してないかということを調査して、鑑定しております。

特に頭部離断、首の部分で頭と体が切り離されることについて、研究をされたことはありますか。

はい、ある事件について、生体力学的な研究を行いました。

その事件の詳しいことは、後ほどお尋ねしたいと思います。ところで、絞首刑における死因の研究を進めるに当たって、他の研究者の研究も参考にされたことと思います。

はい、よい研究をするためには、それは当然のことです。

それらの研究は、どこの国でなされたものですか。

それらの研究は、主に、イギリス、カナダ、ドイツ、オーストリア、アメリカから出ております。

これまで、絞首刑における死因を研究するに当たって、近年の日本人の論文を参考に使ったことはありますか。

幾つかのテーマ、幾つかの論文は、このテーマについて出されてはいますけども、私の研究のために日本の研究を用いたことはありません。

あなたの知る限り、絞首刑の研究をやっている日本の法医学者はいますか。

私の知るところ、そして、本を見る限り、やってる人はいません。

次に、日本における絞首刑の執行方法についてお尋ねします。まず、日本の絞首刑がどのように行われるかについては、我々が提供した資料によって知ったということでよろしいですか。

そのとおりです。

どういう資料だったか、覚えておられますか。

それは、昔の死刑の執行に関わる絵と、今日の死刑執行場の写真だったと思います。

明治6年太政官布告第65号添付の絞首台の図面を示す

今、示されている図面が、あなたのおっしゃった図面ですか。

そうです。

平成22年8月に公開された東京拘置所の刑場の写真を示す

この写真も、先ほどあなたがおっしゃった写真ですか。

はい、この写真を見ました。

資料1(調書末尾に添付)及び資料2(調書末尾に添付)を示す

それから、死刑執行方法についての文章を表示します。最初に示しているのは、原文と、それから、それの英語訳です。それから、次に、その日本語が昔の日本語ですので、それを現代語に訳したものを示します。この日本語の部分を読み上げます。「およそ絞首刑を行うには、まず両手を背中で縛り、紙で顔面をおおい、引いて絞首台に登らせて踏板の上に立たせ、次に両足を縛り、次に絞縄を首に掛けて、その者の咽喉に当たるようにし、縄を輪にして留めている鉄鐶を頭の後ろに置いてこれを固く締める。次に、歯車の柄を引くと踏板はすぐに開いて落ちて、囚人の体は地面から約30センチメートル離れて宙づりになる。約2分が経過した後に死亡を確認して縄を解いて下ろす。」、これに当たる英語の部分を、あなたは御確認になりましたね。

はい、読みました。

この太政官布告第65号は、明治6年に発せられたものですが、最高裁判所の昭和36年、すなわち、1961年7月19日判決は、現在も効力を有すると判断しました。また、平成10年4月28日の衆議院法務委員会の議事録の中で、法務省矯正局長は、この太政官布告第65号が現在も妥当するという前提で答弁しています。では、これらの図面や写真、説明から判断して、日本の絞首刑は、絞首刑の執行方法で言うと、どういう方式に当たるでしょうか。

高いところから長い距離を下に落下するというやり方ですので、ロングドロップ式だと言うことができます。

法医学者としてのあなたの経験から、日本の絞首刑の執行方法は、世界的に見て特殊でしょうか。

いいえ、同じやり方が、イギリスでは、昔、使われていましたし、アメリカでは、現在でも使われています。

ということは、海外での絞首刑に関する研究は、日本の絞首刑にも適用できますか。

はい、そう言うことができます。

では次に、絞首刑における死因についてお尋ねします。すなわち、絞首刑を執行された人は、医学的観点から見た場合、どのようにして死に至るかということです。絞首刑における死因は、全部で幾つに分類できますか。

五つのカテゴリーがあります。

絞首刑で起こり得る五つの死因を列挙していただけますか。

一つ目が、頚動静脈の圧迫によって起こる、脳に酸素が行かなくなる酸欠状態です。咽頭の閉塞によって起こる窒息状態です。3番目が、頭部離断です。4番目が、延髄の損傷を伴う椎骨の骨折です。五つ目が、迷走神経損傷によって起こる急性の心停止です。

「絞首刑における死因(Todesursachen beim Erhnägen)」と題する表(調書末尾に添付)及び図1(調書末尾に添付)を示す

ここで、今の死因を表示したものを掲げます。この表は、一番左に、1番から5番まで、今、挙げてもらった死因が書いてあります。右の方に幾つかの項目があります。今から、1番から順番に説明、まず、一番最初の説明をやっていただきます。では、それぞれの死因について、もう少し詳しく説明していただきたいと思います。医学用語が出てきますので、適宜、図を用いながら説明していただきたいと思います。最初の死因は、「頚動静脈の圧迫によって起こる脳に酸素が行かなくなる状態」です。この図を用いて、1番の死因について説明していただきます。

この図が示しているのは、脳に至る血管の図解です。青が静脈、赤が動脈を表しています。首が圧迫されて、動脈と静脈が閉じられると、脳に血流が行かなくなります。それが起こると、5秒から8秒間の間に、脳に意識がなくなり、そして、何分間かたつと、脳が死に至り、そして、結果的に、心臓が止まるということになります。

今の説明の中で、最初の、少なくとも5秒から8秒がたった時点で、どうなるということですか。

その5秒から8秒開の間に、脳に残留していた酸素が使い果たされて、脳の機能が失われて、そして、気絶するということになります。

その気絶した後、どうなりますか。

その後に、酸素の供給が行われないと、脳細胞が死滅して、そして、脳が死に至るということになります。

それは、頚動静脈の圧迫が起きてから、何分後ぐらいの話ですか。

もう元に戻らないような重大な脳の損傷が起こるのは3分後ぐらいからで、5分たつと、脳が完全に死滅します。

脳が完全に死んだ後は、どうなりますか。

脳が死ぬと、その後で、心臓が停止します。

図2(調書末尾に添付)を示す

それでは次に、2番について説明していただきます。「咽頭の閉塞によって起こる息が出来なくなる状態」です。この図で説明できますか。

この絵で示されているのは、呼吸する空気の通る道のことです。息をすると、鼻とロから息が、空気が入って、気管に至ります。そこで、ロープで首が絞められると、喉の咽頭の部分が圧迫されて、気管が閉塞され、息ができなくなります。空気の供給が行われないと、窒息の症状が出てきます。

その後、どうなりますか。

何か起こるかっていうと、体に酸素が残留している場合には、一、二分間、その酸素で大丈夫ですが、その2分間が終わると、意識が失われます、消失します。そして、5分後には脳死が起こり、脳死が起こると、結果的に心臓が止まります。

図3(調書末尾に添付)を示す

これで、もう一度、説明していただけますか。

この絵で、もう一度説明しますけども、空気が通る道を示しています。口と鼻から、通常は空気が吸い込まれて、気管に至ります。そして、肺に空気が行くわけです。ロープが喉に掛けられて絞められると、喉の咽頭の部分が骨に押し付けられるような形になって、そして、空気が通らなくなります。

次に、この表の3番目の「頭部離断」について説明していただきます。頭部離断とは、どういう意味ですか。

頭部離断というのは、喉にかかる力が大変大きかったときに、頭部が体から離断する、離れてしまうという状態のことを指します。

そうなると、もちろん人は死ぬということですね。

もちろんです。

図2(調書末尾に添付)を示す

次に、4番目、「延髄の圧迫ないし損傷を伴う椎骨骨折」についてです。延髄の圧迫ないし損傷を伴う椎骨骨折について、説明していただけますか。

これが、頭部の横からの断面図です。ここにあるのが、脊椎骨です。その骨の中に通っているのが、脊髄で、今、示してる部分、それが脊髄で。

そのピンク色の部分っていうことですね、縦長の。

そうです。そして、そこが、延髄です。今、示したところが延髄です。脊椎骨が骨折して骨がずれると、その骨が、脊髄を圧迫するか、傷付けるということが起こり得ます。それが起こると、全身のまひ、そして呼吸困難、そして、結果的に心臓が停止します。心臓の機能に損傷が起こります。

その後、どうなりますか。

まず、気絶が、意識が消失して、その後、脳死が起こる。そして、結果的に、心臓が停止します。

ところで、ハングマン骨折というのは、どういうものですか。

ハングマンズフラクチャーというのは、第2脊椎骨の骨折によって起こる、脊椎骨折の中でも特殊なものです。

もう少し説明していただけますか。

それが起こると、脊椎に圧迫や損傷が起こります。このハングマンズフラクチャーは、交通事故で、バイクの運転手などが、時々起こるものですが、命を生きながらえることもあります。

骨折が起こるのは、いわゆるC2と呼ばれている骨ですか。

そうです、脊椎骨は、上から順番に番号が打ってあって、C2というのは、上から2番目の骨のことです。

C3でも起こり得ますか。

ええ、起こり得ますが、それは、まれにしか起こりません。

ところで、今、説明していただいたハングマン骨折、これが、絞首刑で行われると、受刑者は即死すると言われることがあります。これは、本当でしょうか。

それは、正しくありません。絞首刑の場合には、ハングマンズフラクチャーが起こる場合はまれですし、もし起こったとしても、それは、骨折によって死に至るのではなくて、延髄が損傷するから死に至るんです。

図4(調書末尾に添付)を示す

それでは次に、5番目です。「迷走神経損傷によって起こる急性心停止」についてお伺いします。では、この図を用いて、迷走神経損傷によって起こる急性心停止について説明していただけますか。

迷走神経というのは、脳幹から発していて、心臓の機能や消化の機能をつかさどるものです。迷走神経が心臓に及ぼす役割は、迷走神経が興奮すると、鼓動がゆっくりになります。外部から暴力的な力が加わって、それによって、迷走神経が、過度に、非常に強く興奮すると、心臓の鼓動が大変ゆっくりになって、ついには心臓停止に至るということがあります。それは、手で首の咽頭の部分を圧迫しても起こり得ますし、ロープで首を絞めても起こり得ます。心臓が止まると、脳に酸素が行かなくなります。10秒から12秒たつと、意識が消失します。そして、5分後には、脳が完全に死滅します。

その後は、どうなりますか。

そうすると、人は死にます。

今、絞首刑の死因、五つについて順に説明していただきました。ところで、我が国の最高裁判所が根拠としたと推定される古畑鑑定は、先ほど、冒頭陳述で説明しましたように、絞首刑の場合は、瞬時に意識を消失するという前提を重視しています。そこで、以下では、これら五つについて、意識の消失という観点から説明していただきたいと思います。まず最初は、1番についての説明です。1番、「頚動静脈の圧迫によって起こる脳に酸素が行かなくなる状態」の場合ですが、受刑者の体が、絞首刑の執行で落下して、それで、縄が絞まってから、受刑者の意識の消失までに、どれぐらいの間、受刑者は意識があるのでしょうか。

第1の死因の場合には、5秒から8秒間で意識が消失します。

受刑者が落下して、縄が絞まってから、5秒から8秒の間は意識があると、その根拠を説明してもらえますか。

その原因は、意識が消失する原因は、5秒から8秒間の間は、脳に十分な酸素の量が残留しています。そして、血管を通って血流が供給されないと、意識が失われます。

そのことを論じた論文がありますか。

アメリカのロッセン博士他の論文があります。

資料3(調書末尾に添付)を示す

ロッセン博士の論文を示します。今、左側に示されているのが、英語の原文です。その右側が、日本語の翻訳です。これが、今、あなたのおっしゃった、ロッセン他の論文ですか。

そうです、この研究です。

論文のタイトルは何といいますか。

「ヒトにおける急性脳循環停止」です。

ロッセン他が行った実験の内容を説明いただけますか。

ロッセンと彼の共同執筆者たちは、首の周りに巻いて圧力を掛ける機械を発明しました。この実験のために、100人以上の有志の人たちを募って、その人たちが何秒後に意識を消失するか、そして、EIAAGと呼ばれる反応がいつ起こるか、脳の血流の異常ですね、これを調べました。

今、説明の中にあった首に巻く機械というのは、どういうものですか。

それは、血圧を測る機械に似ています。

もう少し説明してもらえますか。

お医者さんで血圧を測るときに、空気によって圧迫して、腕を圧迫して、そして、血圧を測りますね。そして、血圧を測る場合も、動脈の血流が止まるまで空気を入れて、腕を圧迫するわけですが、それと同じようなことです。

それを、首に巻くようにしたということですか。

ロッセンは、大変早く空気が入って血流が完全に止まるような機械を発明したので、すぐに血流を止めることができました。

そのロッセンの実験結果から、どういうことが分かりましたか。

被験者たちは椅子に座った状態で、で、実験をする人たちが目の前で指を動かして、その指に目の動きがついてくるかどうかを見たんです。そして、ロッセンは、いつ、その指の動きに目がついてこれなくなるかっていう時間を測ったんです。そして、目の動きがついてこれなくなった時点から、1秒後に被験者たちは気を失って、首が、前とか後ろにうなだれる状態になりました。そして、その掛かった時間が、ストップウオッチによって測られたわけです。

ロッセンの結論は、どういうことになりますか。

この実験が示す結果は、血流が止まってから、5秒から8秒の後で、意識が消失するということが分かりました。

図5(調書末尾に添付)を示す

ただいまの証言を明確にするために、弁58号証の520ページ、その和訳の10ページの図を示します。この図は、どういうものですか。

この図が表してるものは、血流が止まってから、何秒後に、目の動きが指の動きについてこれなくなるかっていうことを示しています。

この表によって何が分かるか、もう一度、指し示しながら説明していただけますか。

横の軸が、4秒から10秒まで時間を表しています。そして、上が被験者の数です。そして、早くて4秒後に、被験者の目の動きが指の動きについてこれなくなるということが分かります。そして、それが10秒まで測られています。その値っていうのは、被験者によって、人によって違うわけです。そして、大多数の人が、5から8秒の間に、目の動きがついてこれなくなっています。

その棒で言うと、どの部分になりますか。

それは、今、初めの棒が30人以上、次が20人、そして次が。

初めというのは、一番高い棒ですね。

そうです。そして、一番、今、指し示した、一番高い棒が、4秒、そして、その1秒後に、意識が消失しているということです。

裁判員及び被害者参加人の退廷

今、示された図5の説明をやっていただきました。この図の意味は、多くの人は、5秒から8秒の間は意識があるけども、それ以降は意識を失うということですね。このロッセンの実験は、絞首刑そのものの実験ではありませんが、絞首刑にも当てはまりますか。

ええ、使えます。というのは、絞首刑の場合でも、全ての血管が、すぐに、瞬時に絞められて、血流が止まるということが起こり得るからです。それが起こった場合には、ロッセンの結果を使うことができます。

では、意識があったこの5秒から8秒の間に、受刑者は苦痛を感じるのでしょうか。

はい。この間、受刑者は意識があり、もちろん、そういうことですから、苦しみを感じます。

どういう苦痛を感じるのでしょうか。

二つの苦しみがあると思います。一つ目は、喉を圧迫することによって生じる苦しみです。もう一つは、首に非常にひどい損傷が生じる苦しみです。

喉が絞められることによる苦しみというのは、どういうものか説明していただけますか。

初めの方ですね。

はい。

その圧迫によって、神経が圧迫されるので、苦しみを、痛みを感じるわけです。

2番目の痛みは、どういうことでしょうか。

二つ目の痛みは、絞首するロープによって首に生じる傷が起こす痛みです。

ところで、このロッセン他の論文が信頼に値すると言える根拠は何でしょうか。

二つの理由があります。一つ目の理由は、この論文が大変信用がおける科学の雑誌に投稿されて発表されているということです。このような雑誌で発表されるまでには、鑑定する学者たちのコントロールが、チェックが何度も入ります。もう一つの理由は、他の科学者、学者たちによって、このロッセンの論文が、何回も、内容が正しいということが証明されているからです。例えば、絞首を研究している研究グループは、ロッセンと同じ研究結果に至りました。最近の研究で、14例の絞首の例が研究されました。この調査されたうちでは、7秒から13秒の間、意識が喪失されるまでに掛かるという報告結果があります。

その7秒から13秒までの間、意識があるというのは、どうやって、その研究で分かったんですか。

これは、ビデオで、その様子が撮影されていました。そして、そのビデオを見て、そういう結論に至ったのです。

ところで、ロッセンの論文は、頚動静脈が完全に圧迫されて、脳への血流がなくなった場合について扱ったものですね。

そうです。

絞首刑の場合、頚動静脈は、常に完全に圧迫されるのでしょうか。

いえ、いつもではありません。それは、絞首するロープの結び目が、首のどこにくるかによって違ってきます。

結び目の位置がどういう場合だったら、どうなるということでしょうか。

そういうことです。

じゃなくて、結び目が、首の、例えば横にある場合は、どうなるんでしょうか。

完全な、頚動静脈が完全に圧迫されるためには、絞首のロープがシンメトリーに、左右対称でなければなりません。結び目が片方に偏ってるときは、結び目の反対の方に荷重な圧迫があり、結び目と同じ方が緩くなる場合があります。そのときは、そこから、血流の一部が脳に達することができるということです。

その場合は、どういうことが起こりますか。

そうすると、意識を失うまでの時間が格段に長くなります。そして、その間に、苦しみを感じることができるわけです。

どうして、意識を失うまでの時間が長く掛かるわけですか。

それは、部分的な血流が、脳に新鮮で新しい血を送って、それによって、酸素が脳に供給されるから、だから、意識が長く続きます。

結び目が横にあるときは、血流が完全に止まらないから、脳に血液が供給されるということですね。

そういうことです。

頚動静脈が完全に圧迫されることがない原因が、他にありますか。

ええ、解剖学的には、特性によって、首に、より強い圧力をかけなければならないような人がいるとすれば、そういうときは、頚動静脈が完全に圧迫されることにはならない。

解剖学的な特性というのは、どういうことですか。

解剖学的に見て、血管が通常の人とは違うような通り方をしてる人がいます。そういう人では、完全な圧迫が起こらない場合があります。

それから、頚動静脈が完全に圧迫されない場合として、結び目の位置がずれるっていうことは、落下中にずれるっていうことはありますか。

はい、そういうことはあるかもしれません。また、縄が絞まる段階で、いがむということもあり得ます。

では、頚動静脈が、圧迫はされたが、完全には圧迫されなかった場合には、受刑者が意識を消失するまでには、どれぐらい掛かりますか。

具体的に、それを完全に予見することはできません。というのは、どのぐらいの量の血流が血管を通って脳に供給されるか分からないからですが、意識のある時間は、数分に及ぶかもしれません。

以上の結論としまして、絞首刑における死因の1の場合、「頚動静脈の圧迫によって起こる脳に酸素が行かなくなる状態」の場合、受刑者は、瞬時に意識を失うことはなく、また、意識を消失するまでの間に痛みを感じ得るということですね。

そうです、合ってます。

次に、絞首刑の死因の2番目、「咽頭の閉塞によって起こる息が出来なくなる状態」の場合についてお尋ねします。受刑者が落下して、綱が絞まってから、受刑者が意識を消失するまで、どれぐらいの時間が掛かるんでしょうか。

それを完全に予見することはできませんが、平均的な人では、窒息によって意識を消失するまでに、平均的に一、二分掛かります。

その一、二分の間は、受刑者は、痛みを感じるんでしょうか。

はい。一つには、絞首のロープによって生じる首の傷からの痛みを感じます。そして、もう一つは、窒息による苦しみを感じます。

ということは、絞首刑の死因の2番目の場合も、受刑者は、落下して縄が絞まった瞬間に、意識を消失するわけではないし、その間に痛みも感じるということですね。

そうです。

では、死因の三つ目、「頭部離断」の場合についてお尋ねします。頭部離断が起こった場合は、頭と胴が、体が離ればなれになってしまいますから、この場合は、瞬間的に意識を消失するんでしょうか。

ええ、これを、学術的に、科学的に意見が一致していない点です。というのは、これを後から証明することができないからです。確認することができないからです。すぐに意識を喪失するかどうかは、脳の損傷の程度にかかっています。

ということは、結論としては、すぐに意識を失うかどうかは、医学的、科学的には分からないということですか。

はい、この質問に対しては、具体的に、はっきりと答えることができません。

次は、絞首刑の死因の4番目、「延髄の圧迫ないし損傷を伴う椎骨骨折」の場合についてお尋ねします。この場合は、受刑者が落下して綱が絞まってから、受刑者が意識を消失するまで、どれぐらいの時間が掛かるのでしょうか。

脊髄の損傷の程度にかかっています。脊髄の損傷が延髄に近いような高い部分で起こったときは、意識の消失がすぐに起こります。

そうでない揚合は、どうなりますか。

その脊髄の損傷が、体の下の部分で起こった場合は、全身まひが起こって、受刑者は苦しみを感じます。

ということは、絞首刑死因め4番の場合は、ほぼ瞬間的に意識を消失する場合もあれば、すぐには意識を消失しない場合もあるということなんですか。

そうです。

その違いは、延髄が重い損傷を受けるかどうかによって変わるっていうことですね。

そうです。

それから、絞首刑の死因の5番目、「迷走神経損傷によって起こる急性心停止」についてです。この場合は、受刑者は落下して、綱が絞まってから受刑者が意識を消失するまで、どれぐらい掛かるのでしょうか。

医学的には、意識がある状態は、大体10秒から12秒続きます。

どうして、意識がある時間が、10秒から12秒あると言えるんですか。

脳が酸素のリザーブをなくして、そして、意識がなくなるまで、これだけの時間が掛かるということです。

ということは、この場合も、受刑者は、縄が絞まってから瞬間的に意識を消失するというわけではないのですね。

そのとおりです。

次に、受刑者の身体に損傷が起こる場合についてお尋ねします。まず、頭部離断の場合ですけども、頭部の離断は、常に完全に起こるのでしょうか。

いいえ、違います、そうじゃありません。

常に完全に起こるわけではないということは、どういうことが起こるということになりますか。

あらゆる段階における損傷が可能です。それは、一番軽いものは、首の皮の軽い傷、そして、筋肉が裂け、そして、血管が裂け、そして、脊椎が折れます。そして、最後に、一番強いものが残るんですが、それは、首の皮です。

一番強いのが首の皮だとすると、首の皮以外の部分が全部断裂して、首の皮だけが完全に残ってるということはあるんですか。

はい、そういうことは起こり得ますし、そのことに関する研究が、既に発表されています。

その場合は、見た目は、外見上は完全に見えるわけですか。

首は、ちょっと伸びてるように見えますけども、内部がどう起こっているのかというのは、解剖しないと分かりません。

ということは、仮に解剖した場合に、首の皮だけがつながっていて、内部が完全に切れている場合を見付けることができるということですか。

そうです。

完全に頭部が離断するのではない場合としては、内部だけが離断してる場合に限られますか。

ええ、その概念は同じです。概念の内容は同じです。

例えば、右半分だけが切れるというふうなことはあるんですか。

それも可能です。

ということは、不完全な頭部離断には、2種類あるということですか。皮膚は完全に残ってるけども、中が完全に切れてる場合と、それから、皮膚の一部も内部組織の一部も切れているけれども、一部がつながっているということですね。

もし、首の皮膚の一部が裂ければ、すぐに、大抵の場合、完全に首は切れてしまいます。そして、内部の離断がどの程度起こるかっていうのは、程度が違います。いろんな程度があります。

不完全な頭部離断が起こった例について、何か御存じですか。

ええ、幾つかの事例を知っています。最近では、2008年に、ハンガリーでそういう事例が報告されました。そして、日本からは、石橋無事という人の研究を知っています。

資料4(調書末尾に添付)を示す

その石橋無事の研究論文を示します。この画面の右側が、もとの日本語の論文です。左側が、それを英語に訳したものです。ラブル博士には、この左側の英文を読んでいただきましたね。

はい。

これは、頚部の損傷について、英語に訳したものです。首の部分ですね。これには、どういう例があるというふうに書いてありましたか。

石橋無事博士は、14の絞首で死んだ例を取り上げて、そのうちの10例、首の組織を調べました。そして、その10例のうち9例で、非常に甚大な損傷が首の組織にありました。そして、その中には、内部離断というものも含まれていました。

ということは、我が国、日本でも、内部離断が起こっている例はあったということですね。

はい、幾つかの例があったと思います。

それでは、この五つの死因が、それぞれ、どれぐらいの確率で起こるものなのかについて説明していただきたいと思います。まず、最初に、死因の4番目について取り上げたいと思います。というのは、先ほどのラブル博士の説明では、延髄が重大な損傷を受けた場合には、瞬間的に意識を消失するというふうにおっしゃっていたからです。その4番の延髄の圧迫ないし損傷を伴う椎骨骨折というのは、どれぐらいの頻度で起こりますか。

この死因は、とてもまれにしか起こりません。

どうして、まれにしか起こらないのでしょうか。

二つの学術論文があります。一つは、リック・ジェームズという人の学術論文で、ここでは、34例中に7例で椎骨骨折が起こっています。そして、石橋無事博士の研究があります。彼は、10例中、二つの例で、椎骨の骨折を確認しました。

そのような椎骨骨折が起これば、必ず延髄の圧迫は起こるのでしょうか。

いいえ、いつもではありません。

椎骨の骨折に伴って、延髄が損傷を受けたり圧迫されたりするというのは、どれぐらいの頻度で起こるんですか。

そのことをはっきりと答えることができません。学術的な結果が出ていません。結論が出ていません。

少なくとも、椎骨骨折が起こる確率は低いし、それに伴って、延髄が圧迫されたり、損傷を受けるということは、少ないということですね。

それは、正しいです。あなたのおっしゃったことは正しいです。事故の調査によって得られた結果も、この結果と一致しています。そして、その場合、椎骨骨折が起こっているときでも、延髄が傷付いてない場合があります。

椎骨骨折が起こっても、延髄が傷付いていない場合として、例えば、椎骨の2番目や3番目が骨折する場合っていうのはありますか。C2やC3の高さで脊髄が損傷を受けた場合は、どういうことが起こりますか。

この高さで脊髄の損傷が起こると、首より上の部分以外の体の全身がまひして、体が動かなくなります。

ということは、延髄を圧迫したり、損傷したりしなくても、全身のまひが起こる場合があるということですか。延髄の損傷や圧迫が起こらなくても、全身のまひが起こる場合があるということですか。

そうです。

全身がまひしている場合というのは、手や足を動かすことはできませんね。

はい、その受刑者は、外から見ると、まるで死んだように見えます。動けないので、死んだように見えます。

でも、首の途中で損傷を受けるから、目を開いたりはできるんじゃないですか。

はい、視覚もありますし、聴覚もありますし、口を開いたりもできると思います。

しゃべることはできるんですか。

絞首のロープがきつく絞まってるときには、息を吸ったり吐いたりできないので、しゃべることができません。

ということは、我が国の絞首刑では、事前に、布が頭部にかけられます。そうすると、目を開けたりしていても、誰も気付かないということがあるんじゃないですか。

そうです。

ということは、首から下は全く動かずに、首から上は布で覆われているので、その人は、全く死んでいるように見えるかもしれないっていうことですか。

そうです。

それから、次に、絞首刑の死因の5番目、「迷走神経損傷によって起こる急性心停止」についてお尋ねします。これは、どのような頻度で起こるのでしょうか。

これもまた、非常にまれにしか起こりません。

どうして、非常にまれにしか起こらないと言えますか。

私は、法医学者として、今まで、250名から300名の絞首によって死んだ人の遺体を調査してきましたけども、そのうちで、5番目の要因によって死んだ人は、2例しか見つかりませんでした。

次に、絞首刑の死因の3番目、「頭部離断」についてお尋ねします。絞首刑で頭部離断が起こる確率は、どのようなものでしょうか。

具体的な数字や、はっきりとした予見をすることはできません。

統計があるかどうか、聞いたことがありますか。

いえ、聞いたことがありません。

頭部離断の報告例は、聞いたことがありますか。

はい、読んだことがあります。

ところで、かつてイギリスでは、絞首刑の執行の際に、落下表と呼ばれる表が用いられていたということですが、落下表とはどのようなものでしょうか。

その表によって、受刑者の体重と、絞首に使われるロープの長さをコントロールしました。

どうして、受刑者の体重とロープの長さを一覧表にしたのでしょうか。

何のためにこの表を作ったのか、はっきりしたことは分かりませんが、多分、全ての受刑者が、いろいろな体重の受刑者が、皆、同じ程度の力が首にかかるようにと、この表を作ったんだと思います。

どうして、そういうことをする必要があるのでしょうか。どうして、同じような力がかかるようにする必要があるのでしょうか。

それには、二つの理由があります。一つは、頭部離断を防ぐためです。そして、もう一つの理由は、その力が、ちょうどいいぐらいの力で、脊髄を損傷して、椎骨を骨折させて、脊髄を損傷させるのに十分な力となるように、この表を作ったんだと思います。

そういうふうに推測されるっていうことですね。

そうです、私の推測です。

さて、本日の証言の初めでも少し触れましたが、あなたは、ある頭部離断の例について詳しく研究されましたね。

そうです。

その研究の内容について説明していただきたいのですが、まず、研究されたのは、どのような事件ですか。

それは、ある男性が、小屋の中で首つり自殺をした事例でした。その際に、彼が使ったのは、絞首のロープが非常に長かったので、長さが長かったので、頭部離断が起こりました。

自殺の例ですね。

そうです。

その自殺の場所は、建物の中ですか、外ですか。

外で起こりました。彼は、家のはりにロープをくくりつけて、ベランダから飛び降りたんです。

その事件をきっかけに、どのような研究をされたんですか。

その事件の研究に続いて私たちがしたことは、どのぐらいの力がかかれば、頭部離断が起こるかということを調べました。それに加えて、私たちは、首のいろんな部分の組織を取って、それを機械にかけて、生体力学的に、どのぐらいの力に頼るかということを調べました。そして、全体的な結果として得たのは、1万2000ニュートンの力がかかると、頭部離断が起こるという結論に達しました。

今の説明の中で、まず、頚部、首の部分のどういった組織について調査をされたんですか。

私たちは、首の皮、そして、筋肉組織、血管組織、そして、椎骨を、生前に、医学の発展のために献体をしたいという意思を示した人の遺体から取りました。

そういう組織を取って、実際には、どういう実験をするんですか。

それらの組織を生体力学的のための機械にかけて、引っ張りの強度を調べました。その組織が引っ張りによって裂けるまで、それを続けました。

一番、引っ張る力に対して強かったのは、どの組織ですか。

皮膚が一番強かったです。

皮膚は、例えばどれぐらいの力で裂けるのですか。

1センチメートル四方当たり、150ニュートンの力まで耐えることができました。

他の組織は、どうですか。

例えば、喉の両脇にある筋肉組織は80ニュートン、そして、頚椎は1000ニュートンまで耐えました。

例えば、私の首の周りは40センチぐらいありますけれども、40センチぐらいの首の周りの人の場合は、どれぐらいの力の強さで皮膚が離断しますか。

頭ですか。

いや、首の皮膚です。

首の皮だけの話でしますと、首の周りが40センチですから、それに150ニュートンを掛け合わせると、6000ニュートンということになります。

完全に頭部が離断するのには、どれぐらいの力が必要ですか。

平均的に、大体1万2000ニュートンという結論になりました。

では、例えば、私に1万ニュートンの力がかかると、どういうことが起こりますか。

1万ですか。

はい。

その場合には、頭部離断は、多分、起こりません。

だから、どういうことが起こりますか。

首の内部組織に、著しい損傷が起こります。例えば筋肉組織に損傷が起こりますが、皮の組織は残るでしょう。

首の内部だけ離断するっていうことですか。

それが起こることもあります。

完全な頭部離断が起こる1万2000ニュートンというのは、どれぐらいの力を言うんですか。

ニュートンというのは、力の強さを表す単位で、1万2000ニュートンっていうのは、約1200キログラム重、1.2トンの強さです、の重さに相当します。

ということは、例えば私の首に1.2トンの重りを、加速度をつけずにぶら下げたっていうような場合ですか。

そうです。首を固定して、下から1.2トンの力で引っ張ると、頭部離断が起こります。

それから、次の質間ですが、2メートルぐらい落下させるロングドロップ方式の絞首刑において、受刑者に頭部離断が起こるかどうか、予測することはできますか。

前もって予見することはできません。

どうして、予見することはできないんでしょうか。

なぜ予見できないかというと、非常にたくさんの要素が加味されなければならないからです。一番重要なのは、絞首のロープの長さと受刑者の体重ですけども、それ以外にも、ロープの性質だとか、絞首の種類、絞首のやり方、また、その受刑者の身体的な特徴などが、要素として加味されなければならないからです。

身体的な特徴というのは、例えばどういうことですか。

例えば性別によって、男性であるか女性かによって変わってきますし、年齢によっても違ってきます。そして、さっき言った150ニュートンという、1500ニュートンでしたっけね。

全体を1万2000で、皮膚は150です。

150ニュートンという数値も、真ん中の値であって、平均値であって、その上下することがあるわけです、人によって。

今、様々なファクターを挙げてもらいましたけれども、それらのファクターを考慮に入れて、表を作ればいいんではないでしょうか。

なぜなら、この要素を具体的に言うことができないのは、その要素が時間によっても変わってきますし、全てを前もって言うことができないからです。

とすると、ある受刑者について、絞首刑を執行した場合に、頭部離断が起こるかどうかは予測できないということですか。

そのとおりです。

あらかじめ、頭部離断が起こらないように調整することはできないんですか。

できません。

ということは、日本の絞首刑でも、完全な頭部離断が起こり得るということですか。

その可能性があるというだけではなくて、起こり得る、十分起こり得ると言うことができます。

ところで、あなたの研究と似た研究をされているイギリス人の学者を御存じですか。

この問題、正にこの問題について、生体力学的な研究をしたノークス教授を知っています。

そのノークス教授が、絞首刑の執行において、どのようなことが起こるかを、ダミー人形を使って実験した映像があります。これは、イギリスのBBCというテレビ局のホライズンという科学教育番組で撮影されたものの一部です。落下距離が絞首刑にどのような影響を与えるかを分かりやすく説明していますので、その番組の一部を映写した上で、あなたの御感想を教えていただきたいと思います。

異議申立て

検察官

この証人尋問で、これを示されるというお話は事前にお聞きしていなかったんですけれども、証人自身が、作成されたものでも実験されたものでもないものを、ここで示されるということには異議がございます。

弁護人

もともとこれは、この法廷において上映する予定のものでしたし、しかも、ラブル教授も、もともと御存じの映像ですので、検察官の異議には理由はないと思料いたします。

裁判長

異議申立棄却決定

弁護人

弁証拠番号64のDVD「hanging experiment (絞首刑実験)」を再生する

今、上映した映像について、どう思われましたか。

この実験では、一つの要素しか変更されていません。それは、ロープの長さです。しかし、実際には、人によって、もっといろいろなファクターがあるわけです。この実験では、二つの全く同一のダミー人形が使われていますが、それでも、これだけ大きな違いが出たわけです。

最後に、ノークス教授が、変数が多すぎるので、正確な落下表を作ることができないという趣旨のことを言ってましたけど、その点はどう思いますか。

私も、全く同じ考えです。

ということは、正確な落下表を作り、それに従って絞首刑を執行して、頭部離断を防ごうとしても、それはできないということになりますか。

そのとおりです。

でも、頭部離断を防ぐためであれば、首に働く力を弱くすればいいわけですから、あなたの研究からすると、落下距離を短くするとかすれば、頭部離断は防げるのではないでしょうか。

ええ、そうですけども、そうした場合には、受刑者が、より長い時間、苦しみながら死んでいくという可能性が高くなります。

絞首刑に死因が五つありますけれども、その死因のうちの3番目を防ごうとすると、1番目や2番目の可能性が高くなるということですか。

ええ、それは、自動的にそういうことが起こります。

ほぼ瞬間的に意識を失い、しかも、頭部離断が起こらないような絞首刑を執行することはできないのでしょうか。

外部から、それをコントロールすることはできないです。

では、古畑鑑定についてお尋ねします。あなたは、英語に訳した古畑鑑定を読まれましたね。

はい、それを読みました。

資料5(調書末尾に添付)を示す

それの、まず、古畑鑑定の原文を示します。これを読んでみます。「それ故、頚部に索条をかけて、体重をもって懸垂すると(縊死)、その体重が20キログラム以上あるときは左右頚動脈と両椎骨動脈を完全に圧塞することができ体重が頚部に作用した瞬間に人事不省に陥り全く意識を失う。それ故定型的縊死は最も苦痛のない安楽な死に方であるということは、法医学上の常識になっているのである。(中略)」続きで、「絞殺が最も理想的に行われるならば、屍体に損傷を生ぜしめず、且つ死刑囚に苦痛を与えることがなく(精神的苦痛は除く)且つ死後残虐感を残さない点に於て他の方法に優っているものと思う。」、まず、この古畑博士の鑑定について、絞首刑における五つの死因のうちの、どれとの関係について述べたものだということが言えますか。

この鑑定書で考慮されているのは、1番目の死因、つまり、頚動静脈の圧迫によって起こる脳に酸素が行かなくなる状態についてしか考慮されていません。

2番から5番については、考慮されていないということですね。

そうです。

古畑博士は、血流を完全に止めることができると言っていますが、この点は正しいですか。

はい。これは、絞首のロープが、全くシンメトリーになっていて、両方の血管が同じように圧迫された場合には、可能です。

それは、結び目が、首の真後ろにある場合ということですか。

そうです。

結び目が、首の真後ろになく、左右対称でない場合は、どうなりますか。

その場合には、血管のうちの幾つかが開いてる状態で、そこから血流の一部が脳に達して、そして、意識のある状態が長く続くということになります。

ということは、ロープの結び目が左右対称になるような真後ろにあれば、血流はすぐに止まるけれども、そうでない場合には、血流はすぐに止まらないということですね。

絞首のロープがシンメトリーであって、結び目が頭のちょうど後ろにある場合でも、5秒から8秒間の間は意識が続き、その間に、苦しみを感じることができます。

定型的縊死という言葉は、首の真後ろに結び目があって、左右対称になっている場合のことですね。

はい。法医学の世界では、絞首に、定型と非定型のものがあるというふうに区別しています。定型の絞首は、絞首のロープがシンメトリーな状態で、結び目が。

シンメトリーっていうのは、左右対称ということですね。

そうです、左右対称で、結び目が首の真後ろに、頭の真後ろにあるということを言います。

古畑博士は、「定型的縊死は最も苦痛のない安楽な死に方である」と言っていますが、それは正しいですか。

この古畑博士の発言は、絞首刑という関係で言うと、正しくありません。

どうして、そのように言えますか。

なぜなら、高いところから落ちることによって、頚椎に損傷が起こり、首の組織にも甚大な損傷が起こるからです。そして、5秒から8秒間、意識のある状態が続きますので、その間に苦しみを感じる可能性があるのです。

最後に、改めてお伺いします。今、ある人について絞首刑が執行されようとしているとします。絞首刑では、具体的に何が起こるのでしょうか。

この問いには、医学的、学術的に、確実な答えを出すことができません。

何が起こるか、予測することはできないということですか。

誰もできません。

検察官

先ほど御説明のあった、この表にある「絞首刑における死因」と書かれている五つの死因ですが、これは、要するに、首を、ロープなどにかけて、体重をかけて首を絞めるという形の死亡の仕方の場合、全般に言えることということでよろしいでしょうか。

そうです。

縊死という言葉を使いますけれども、法医学の世界で、縊死という言葉を使われる場合の死因というのが、一般的に、この五つが考えられるということですよね。

そうです。

それは、一般的に、法医学の教科書などにも載っていることですよね。

そうです。

それから、証人は、絞首刑以外の死刑の方法についても、御研究されているんでしょうか。

いえ。

絞首刑の場合に何か起こるかは、最終的には、確実なことは全く言えないというお話でしたが、これは、人間の体は一つ一つ、それぞれが違うからだというふうに理解してよろしいんでしょうか。

人による特性の違いだけではなくて、ロープの性質、結び目がどうであるか、また、ロープが滑りやすい、絞まりやすいものであるかどうかなど、様々な要因があるので、予見できないわけです。

今言われたロープの性質だとか結び目だとか、ロープの滑りやすさ、こういったことはコントロールは可能ですけれども、人それぞれの皮膚の強さ、骨の強さ、そういったことについては、事前に予測することができないということではないんですか。

いえ、例えばロープの性質についても、完全に予見することはできないんです。一度、テストされたロープであっても、その後で性質が変わることもありますし、どのぐらい滑りやすくて、そのロープが絞まりやすいかということも変わってくるからです。

例えば薬物注射のような場合であっても、そのように、人、個人それぞれの体調の問題や、いろいろな様々な要因によって、予測できない部分というのは存在するんではないんでしょうか。

そうです。

裁判官

まず、あなたは、首つり自殺をした死体を検死したことは、何体ぐらいあるんですか。

自殺のときと、事故のときもありましたけども、大体250から300体ぐらいの遺体を検死しました。

そのうちで、いわゆるロングドロップ方式によって、自殺、又は事故に遭ったというものは、どれぐらいあったんですか。

はっきりとした数は分かりませんが、50から100だと言うことができます。

絞首刑にあった死体を検死したことはありますか。

いえ、したことありません。

あなたが経験した検死のうちで、どのような死因のものが一番多かったのですか。

この表の上から順番に、死因の多かった順に上から書いてます。

割合は、どれぐらいですか。

一番最後の一番下にあるのは、2例しか見たことがありません。そして、頭部離断は、六、七例、見たことがあります。で、脊椎の損傷は、骨折は、その間に位置しています。一番多かったのは、1番目と2番目の死因、そして、その組合せ、1と2の組合せによる死因が一番多かったです。

その頭部離断というのは、完全に離断したものは、どれぐらいあったんですか。

六、七例です。

裁判長

先はどのお話だと、定型的な絞首、要するに、シンメトリーで結び目が後ろの場合、一番基本的な死に至る経過としては、頚動静脈圧迫による酸素が行かない、あるいは、咽頭の閉塞によって息ができなくなる、これが基本である、それはよろしいんでしょうか。

はい、それが私の調査の結果で、一番典型的な死因ということになります。

首にかかるエネルギーいかんによっては、頭部離断、そういうことも起こり得る、そういうことでよろしいですか。

そうです、正しいです。

基本となるのは、ロープの長さと体重、そして、物理的なものも、それに絡み得る、そういうことでよろしいんでしょうか。

そうです。

日本人と欧米人では、一般的に体格がかなり違うと思うんですが、体重が重いほど頭部離断が生じやすい、それは間違いないことでしょうか。

そうです、それは正しいです。体重が増えると、首にかかるエネルギーの力が大きくなるからです。

皮膚の強さっていうのは、人種によって違うとか、そこら辺は、特に分からないんですか。

ええ、それについての研究を見たことがありませんが、言えることは、一人の人間の首の皮であっても、前の方にあるものは弱くて、後ろの方は強いというような違いはあります。

あと、首が絞まって、意識を失っていくときは、例えば柔道で落ちる、そのとき、あんまり苦痛を感じないということも聞いたことがあるんですが、それは事実とは違いますか。

はい、手で首を絞めた場合にも、意識を失うまでに5秒から8秒掛かります。それは、柔道と似ていると思います。

やっぱりその間、苦痛は感じるんでしょうか。

ええ。でも、その場合には、気分は悪くなりますが、首の柔らかい部分に傷が付かないんです。

要するに、傷が付くから苦痛を感じると。

そうです。

そこが一番、苦痛の大きな原因であるっていうことで。

そうです、ロングドロップのときに起こる苦しみです。

弁護人

日本人で頭部離断が起こった例について、知っていますか。

石橋博士の研究の内部頭部離断の例以外には知りません。

ちなみに、内部離断が起こった場合は、血管が切れてしまいますね。

そうです。

ということは、血液が血管からあふれるわけですね。

そうです。

その血液は、どこに行くんですか。

血は、首の組織の間中に広がります。そして、気管が切れている場合には、気管を通って、その血が、鼻や口から出てくることがあります。それは、石橋無事博士の研究に載っていたことです。

以 上

<資料1>

明治6年太政官布告第65号(絞罪器械図式)
明治6年2月20日

凡絞刑ヲ行フニハ先ツ両手ヲ背二縛シ紙ニテ面ヲ掩ヒ引テ絞架二登セ踏板上ニ立シメ次二両足ヲ縛シ次二絞縄ヲ首領二施シ其咽喉二当ラシメ縄ヲ穿ツトコロノ鉄鐶ヲ頂後二及ホシ之ヲ緊縮ス次二機車ノ柄ヲ挽ケハ踏板忽チ開落シテ囚身地ヲ離ル凡一尺空二懸ル凡二分時死相ヲ験シテ解下ス

The Death penalty by hanging shall be carried out as follows. Bind the condemned inmate’s wrists behind his or her back. Cover his or her eyes with a sheet of Japanese paper. Lead the inmate to the gal lows. Make the inmate climb the steps to the platform of the scaffo1d and stand on the trap door. Apply leg restraints. Put the noose around the inmate’s neck and fit it snugly around his or her throat. The iron ring through which the rope runs shall be at the base of the neck and shall be slid to draw the noose firmly. Pull the lever attached to the gear and immediately the trap door will be sprung and the inmate will fall below the platform. The inmate shall be hanged in the air about 30cm above the ground. After about 2 minutes have elapsed, the death of the person will be confirmed. The corpse shall be taken down and the noose unfastened.

<資料2>

明治6年太政官布告第65号(絞罪器械図式)
明治6年2月20日

およそ絞刑(絞首刑)を行うには、まず両手を背中で縛り、紙で顔面をおおい、引いて絞架(絞首台)に登らせて踏板の上に立たせ、次に両足を縛り、次に絞縄(先が輪になったロープ)を首に掛けて、その者の咽喉に当たるようにし、縄を輪にして留めている鉄鐶(鉄の輪)を頭の後ろに置いてこれを固く締める。

次に、歯車の柄を引くと踏板はすぐに開いて落ちて、囚人の体は地面から約30cm離れて宙づりになる。約2分が経過した後に死亡を確認して縄を解いて下ろす。

<絞首刑における死因(Todesursachen beim Erhängen)>

死因
Todesursachen
説明
Erklaerung
意識消失
Bewusstlosigkeit
苦痛
Schmerzen
身体の損傷
Verletsung des
Koerpers
その他
(1) 頚動静脈の圧迫によって起こる脳に酸素が行かなくなる状態Sauerstoffmangel
durch Kompression
der Halsgefaesse
(2) 咽頭の閉塞によって起こる息が出来なくなる状態
Ersticken  durch  Obstruktion  der  Luftwege
(3) 頭哺離断
Dekapitation
(4) 延髄の圧迫を伴う椎骨骨折
Wirbelfrakturen
mit Verletzung der medulla oblonga
(5) 迷走神経損傷によって起こる急性心停止Akuter
Herzstillstand
wegen der
Verletzung des
Nervus Vagus

<図1>


<図2>


<図3>


<図4>

9 迷走神経(X)vagus nerve


<資料3>

Archives of Neurology and Psychiatry(1943) 50:510-528

ACUTE ARREST OF CEREBRAL CIRCULATION
IN MAN
LIEUTENANT RALPH ROSSEN (MC), U.S.N.R.*
HERMAN KABAT, M.D., Ps.D.
BETHESDA, MD.
AND
JOHN P. ANDERSON
RED WING, MINN.

Numerous investigations have been concerned with the effects of acute arrestof cerebral circulation in animals. The earlier workers1 studied the effects ofligation of the cerebral arteries. More recently, observations have been made onthe effects of temporary occlusion of the chief cerebral arteries2 and of temporary cessation of the heart beat.3 Using the method of occlusion of the chief cerebral arteries, Sugar and Gerard4 measured the survival time for different regions of the cat brain by the persistence of spontaneous action potentials. A careful study of the changes in function and structure of the brain of the cat resulting from temporary occlusion of the pulmonary artery was reported on by Weinberger, Gibbon and Gibbon.5 These methods involved one or another of the following complications: anesthesia; surgical procedures at the time of arrest of circulation in the brain; incomplete arrest of circulation as a result of failure to occlude the anterior spinal artery; arrest of circulation in vital organs outside the central nervous system, and —

ヒトにおける急性脳循環停止

神経学と精神医学紀要 50巻 510~528頁
ラルフ・ロッセン海軍少佐(外科学修士)、米海軍予備役部隊※
ハーマン・カバット、医学博士、学術博士、ベセスダ、メリーランド州
ジョン・P・アンダーソン、レッドウィング、ミネソタ州
※ミネソタ州、ヘイスティングス州立病院の前院長 ヘイスティングス州立病院、ヘイスティングス、ミネソタ州、およびアンダーソン生物学研究所、レッドウィング、ミネソタ州 出身。

動物における急性脳循環停止の影響に関して膨大な数の研究が行われてきた。より早期の研究者たち1は、脳の動脈を結紮した際の影響を研究した。もう少し最近になると、主要な脳の動脈の一時的な閉塞の影響2および心拍の一時的停止の影響に関する観察が行われた3。主要な脳の動脈を閉塞する方法を用いて、シュガーおよびゲラルド4は、自発的な活動電位の持続によって、猫の脳の異なる部位の生存時間を測定した。肺動脈の一時的閉塞の結果生じる、猫の脳の機能と構造の変化に関する注意深い研究が、ワインバーガー、ギボン、およびギボンによって報告された5。

<図5>


<資料4>


The findings of the cases reported by Dr. Ishibashi.

In all cases, about 2.4m falling height are supposed to be used according to decree No.65 in 1873 (ref.9).

(EC: Eyelid conjunctiva, LM: ligature Mark, NO: neck organs, OF: other findings, L: in length, W :in width, H: in height, D: in depth)

Case No.1

・46 Year-Old man (179.0cm, 58.3kg)

・EC : pale, no petechia

・LM : Dark red brown, hard, and band-like abrasion (0.4cm W) runs from the small-finger-nail-sized abrade portion 6.0cm posteroinferior to the l. ear lobe and 4.5cm anteroinferior to the l. mastoid process; descends forward; passes above the laryngeal prominence; and ascends backward; and reaches the portion 4.0cm directly below the r. mastoid process. At the region (5.0cm W, 1.2cm H) just above the laryngeal prominence, 4 tears (0.2-0.7cm L) reaching the subcutaneous tissue were found.


<資料5>

古畑種基博士の鑑定書
(昭和27年10月27日)

それ故、頚部に索条をかけて、体重をもって懸垂すると(縊死)、その体重が20キログラム以上あるときは左右頚動脈と両椎骨動脈を完全に圧塞することができ体重が頚部に作用した瞬間に人事不省に陥り全く意識を失う。

それ故定型的縊死は最も苦痛のない安楽な死に方であるということは、法医学上の常識になっているのである。

(中略)

絞殺が最も理想的に行われるならば、屍体に損傷を生ぜしめず、且つ死刑囚に苦痛を与えることがなく(精神的苦痛は除く)且つ死後残虐感を残さない点に於て他の方法に優っているものと思う。

Home > 裁判資料 > 絞首刑の残虐性-オーストリア法医学会会長の証言

Return to page top