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日本の絞首刑採用理由(斬首に比べて苦痛はあるが身体が保たれる)

資料19

明治15年(1882年)に旧刑法が制定されるまでは、通常の犯罪に対する死刑の執行方法として斬首と絞罪(絞首刑)が行われていました。旧刑法制定によって、それは絞首だけに限定されました。以下はその草案を作るための会議でなされたボアソナードと鶴田皓の会議の筆記録です。

《現代語訳開始》

ボアソナード
「欧州の各国では、死刑の内に絞首と斬首の2つの方法があります。現在、英国では絞首の方法を用い、フランスでは斬首の方法を用いています。この2つの方法とも、それぞれ一長一短があります。絞首に処するのは生来の身体を(傷付けないで)保つので、斬首で体と頸が切り離されるのに勝るとの考えからです。また、斬首に処するのはその犯人の身にとって速やかに生命が絶たれ、(その犯人が)苦痛を覚えないので、絞首のように苦痛を覚えるものに勝るとの考えからです。しかし、本当に苦痛を覚えるのか否かは、刑を受ける本人でないので他人が知ることはできません。また、死体を親族に下げ渡すことについても、身体を(傷付けないで)保っておけば、その親族が死体を見ても、格別、残酷な刑を受けたとの恨みを生じる可能性が低いという利点があります。」

鶴田
「そのとおりですね。この条文の第1稿では、死刑は斬首としたけれども、元老院でも絞罪(絞首刑)に処するべきであるとの議論があったと聞きました。ことに日本では現在絞罪をもっぱら使用しているので、やはり絞罪に改めようと思います。」

ボアソナード
「賛成です。今まで論じたとおり、人情から、斬首して身体を2つに切り離すのを避けるのであれば、絞罪にしても良いです。しかし、本人に苦痛を感じさせないというのであれば、斬首にするべきです。もっともその者が苦痛を感ずるか否かは刑を受ける本人でなければそれを知る者はいない訳ですけれど、理屈の上から考えれば、まず刀のひと振りでその生命を絶つので苦痛がないと考えました。よって第1稿では斬首としたわけです。」

この時に日本の絞罪の図を示した。

鶴田
「近来はこの図のような器械を用いて、間違いなく苦痛を起こさせないように上手く執行できます。」

ボアソナード
「すでに現在、米英とももっぱら絞罪を用いています。加えて、犯人の体を2分しないとの考えならば、絞罪にしても問題ありません。フランスで斬首を用いる理由は、昔の封建制度の時代に貴族は斬首し、平民は絞罪としていました。貴族を斬首するのは貴族という身分を尊ぶからです。しかし、1700年代の改革で貴族・平民とも同等に取り扱うべきであるという論拠によって、以前は卑しんでいた方法を廃して尊んでいた方法を用いることにしたために、等しく斬首することとしたわけです。もとよりそれ以外の考えがあったわけではありません。ですので自分はどちらでも異論はありません。」

鶴田
「体と首が切り離された時には、親族に下げ渡すに当たっても耐え難いことが大いにあるだろうと思います。」

ボアソナード
「そのとおりです。斬首を絞罪に改めるのは、たとえ罪人であっても貴重な人間の身体を分裂させないようにするとの考えに立つべきです。もし、苦痛であるかどうであるかの考えに立つ時は、本当に道理に適ったものとは言い難いです。」

鶴田
「それでしたら、絞罪に改めることに決定しましょう。」

《現代語訳終了》

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