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オーストリアの法医学者の論文

資料6抜粋

オーストリアのインスブルック医科大学法医学研究所に所属するヴァルテル・ラブル(Walter Rabl)医学博士らが執筆した「Erhängen mit Decapitation Kasuistik-Biomechanik」(頭部離断を伴った縊死 事例報告、生体工学)という論文(犯罪学雑誌 195巻〈Archiv für Kriminologie 195.Band〉1995年 31~37頁)によれば、飛び降りを伴う首つり自殺や絞首刑で首が切断(頭部離断)される例があります。首つり自殺で首が切れる例はまれですが、自殺かそれとも他殺かを判断しなければなりません。法医学的には研究の余地がある現象なのです。ラブル博士は、絞首刑や首つり自殺では、首に一定以上の力がかかると首が切断されてしまうと述べています。首にかかる力は、その人の体重とその人がどれくらい落下したかなどによって決まります。体重が重いほど長い距離を落下するほど首にかかる力は大きくなります。同博士の調査によると体重80kgの人が首つり自殺で2.4m落下して、首が切断された例をあげています。

以下はこの論文(ドイツ語)の一部を訳したものです。この資料の引用はお断りします。

《引用開始》

頸部器官断裂や脊椎の損傷は、縊頸自殺では稀である。頭部離断に至っては極めて珍しい。比較的旧い文献には、絞首刑時の頭部離断に関する事例が言及されている(キンケード 1885、ザテルヌス他 1978(より広い文献を紹介している)、レイ他 1994)。それに加えて絞首刑に関するいくつかの文献の中に頸部の皮膚が筒状に残存している状態で、しかも頸部器官が離断されている所見の報告が見られる。それについて「内的な頭部離断」とも呼ぶことができる。

…(中略)…

頭部を完全に離断させる負荷値を確認するための実験を行ったところ、値は12000ニュートン程度の大きさであった。これらの値は頸部が生体工学的に耐えうる上限値と見なすことができる。この値の負荷がかかることで、どのような落下であれ、索条物の幅とは無関係に長軸方向に作用する牽引力のみで、頭部離断が起こる。

表1

文献上見られる縊頸による完全もしくは不完全頭部離断の要約

報告者 索条物 体重/紐の長さ 頭部離断
ホルスサベック

1947

牛皮の紐/13mm 85kg/3m 不完全
ヴァイマンとプロコップ 1963 鋼索/5mm 不明/不明 完全
ヨーアヒムとフリードリッヒ 1977 ペルロン/7mm 不明/2.5m 不完全
パンクラツ他

1986

合成物質の紐/10mm 76kg/3.5m 完全
ノヴァクとハイゼ

1990

ペルロン/12mm 不明/4m 不完全
ウルバン他 1990 鋼索/不明 78kg/5m 完全
ポラクとズテルヴァグ=カリオン 1991 合成物質の紐/10mm 80kg/2.4m 完全
ポラクとズテルヴァグ=カリオン 1991 平らな紐/15mm 63kg/10m 完全
ヴァイゲル他

1994

牽引ロープ/20mm 73kg/3.8m 不完全
ラブル他 1994 合成物質の紐/12mm 90kg/3.8m 完全

《引用終了》

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